SERVICE SCIENTIST’S JOURNAL

事前期待
とは
顧客によって千差万別な事前期待。これをシンプルに4種類に分けて捉えることで、事前期待への理解は深まる。
事前期待は4種類
サービスや顧客満足の定義から、その本質として浮かび上がった「事前期待」。しかし事前期待は顧客ごとに様々なので、「事前期待を捉えて応えろ」と言われても、一体どうしたら良いものかと困ってしまいます。そこで事前期待をシンプルかつロジカルに捉え直します。
事前期待には4つの種類があります。それは、「共通的な事前期待」、「個別的な事前期待」、「状況で変化する事前期待」、「潜在的な事前期待」です。
共通的な事前期待
すべての顧客が共通的に持っている事前期待です。
例えば、ホテルや旅館であれば、「清潔なお部屋に泊まりたい」というのは、全ての顧客に共通する事前期待といえます。
これまで多くの日本企業は、この共通的な事前期待に抜けやムラなく確実に応える努力を重ねてきました。マニュアル化やチェックリスト化により、均質なサービスを組織的に提供できるようになってきました。
しかし残念ながら、共通的な事前期待に応えることは、顧客にとっては「当たり前」。それだけで顧客が積極的に我々のサービスを選び続けてくれる時代ではないのです。
そこでカギを握るのが、残り3つの事前期待です。
個別的な事前期待
顧客ごとに異なる事前期待です。
先ほど同様にホテルを例にすると、「枕はそば殻で厚手のものでないと寝苦しい」「ふかふかの羽毛枕が好き」と、枕だけでも顧客ごとに事前期待は様々です。
こういった個別的な事前期待の情報を組織で共有して活用することが重要です。たとえば顧客カルテや顧客データベースのしくみを持っている企業はたくさんあります。しかし、現場ではあまり活用されていないと悩んでいるケースは少なくありません。そこにストックされている情報を拝見すると、「プロフィール」や「利用履歴」はありますが、肝心な「事前期待」の情報がありません。事前期待こそ、組織で共有することで対応力を高めることができます。「前の担当者さんは良かったのに」「営業さんは親身になってくれたのに」と、担当変更や対応部署の変わり目が、顧客との縁の切れ目になってしまわないためにも、組織内そして組織間で「事前期待のバトンパス」が重要なのです。
状況で変化する事前期待
同じ顧客でも状況が変わると、事前期待もいつもと違うものに変わることがあります。
例えば、天気が急変したり、体調が悪かったり、急いでいたり、予算が少し余ったり。
状況の変化に合わせて、顧客の事前期待の変化を敏感に捉えられることが大切です。このタイプの事前期待は「顧客データベース」を見ても意味がありません。なぜならば、「いつもの期待」とは違う内容に変化しているからです。そこで「事前期待へのアンテナの感度」を高める人材育成のテコ入れを始める企業が増えてきました。企業の人材育成は多くの場合、「打ち手」の育成です。「こういう知識を身に付けましょう」「この業務ができるようになりましょう」という具合です。一方で、事前期待を捉えるのは、「経験を積みましょう」「背中を見て学びなさい」「感じ取りなさい」と個人の経験やセンスに頼り切っています。360度全方位にアンテナを張り続けるなんてできません。そうではなく、事前期待をモデル化して、どの事前期待をキャッチしたら良いのかを可視化して、それを教材にして事前期待へのアンテナの感度を高める人材育成を強化するケースが増えています。
潜在的な事前期待
思ってもみないサービスを受けて感動した、という経験の元になる事前期待です。
例えば、書店でしばらく立ち読みをしている妊婦の方にそっと椅子をお出ししたら感激していただけた、といった具合です。
こういった成功体験を事前期待の観点で分析して、組織で共有しておけると、再現できる可能性が高まります。ただし、成功事例の共有は既に行っている企業は多いでしょう。しかし、あまりその事例が役に立っていないという声もよくききます。成功事例の「再現性」と新たな成功事例を生む「可能性」を高めるには、事例をそのまま「こんなことをやったら上手くいった」と打ち手だけを展開してはいけません。その成功事例が「どのような事前期待に応えたから上手くいったのか」それを紐解くのです。どのような事前期待に対して、どのような打ち手で成功事例が生まれたのか。事前期待と打ち手をセットにして展開することがカギなのです。
「事前期待」には種類があります。それをしっかり理解して、サービス事業における事前期待の的を明確にできるかどうかが、サービス改革を成功させる分かれ道になります。