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SERVICE  SCIENTIST’S  JOURNAL  

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バラツキは

悪なのか

​問題

Q.サービスは「均一均質」や「公平公正」でなければいけないのでしょうか。「バラツキは悪」という考え方では、お客様ごとに合わせたサービスの価値が評価できないように思います。

 「サービスの均一化」を課題に、サービス向上に取り組んでいる企業はたくさんあります。実際、「サービスのバラツキをなくしたい」とのご相談を頂く機会が増えています。そこで丁寧に議論してみると、この「サービスのバラツキ」という言葉の意味するところは、各社なりに違いがあります。サービスのバラツキは、必ずしも悪いものばかりではありません。裏を返せば、サービスを均一化・均質化することが、サービスの価値を高めることと一致するとも限らないのです。

 

 言われてみれば当たり前に聞こえるかもしれませんが、実際にサービス向上を組織的に進めようと思うと、「バラツキをいかに無くすか」「サービスをいかに均一化するか」という意識にとらわれてしまいます。サービスの均一化やバラツキに関する取り組みの進め方のヒントとして、サービスのバラツキの良し悪しを整理してみたいと思います。

 

サービスの何がバラついているのか

 

 様々な企業で、人や拠点、時期や時間帯などによってバラついているサービスを均一化しようと熱心に取り組まれていますが、ここでいう「サービスのバラツキ」とは、いったい何を指しているのでしょうか。多くの場合、次の2つに分けることができます。

 

 1つは、サービス提供者のアクションのバラツキです。顧客への対応の仕方や姿勢、言葉遣いや対応スピードなどがその例です。決められた通りの顧客対応がきちんとできなかったり、顧客対応時間など社内で重視している行動指標の結果がバラついたりと、サービス提供者のアクションがバラついていることを問題視しています。

 

 もう1つは、顧客からの評価のバラツキです。一部の顧客からクレームや苦情を頂いてしまったり、同じ対応をしても顧客によって評価の良し悪しの差が生まれてしまったりと、多くのお客様から一様に高い評価を頂くことができていないことを問題意識の中心に据えています。

 

 サービスの均一化の目的に近いのが、2つ目の「顧客からの評価のバラツキ」。それを実現するための手段に近いのが、1つ目の「サービス提供者のアクションのバラツキ」だと捉えることもできます。これは他の取り組みでも言えることですが、目的によって手段の良し悪しは決まります。よって、サービス提供の手段である「サービス提供者のアクションのバラツキ」だけに着目して取り組んでしまうと、均一なサービスを提供できたところで、肝心な顧客からの評価が向上しないということがよくあります。顧客からの評価向上の目的に合わせて、サービス提供者のアクションのバラツキの良し悪しを整理して理解しておく必要がありそうです。

 

顧客からの評価を高めるために

 

 顧客からの評価を高める方向性は2つあります。失点をなくすことと、得点を増やすことです。この2つの方向性によって、「サービスのバラツキ」の捉え方を大きく変えなければなりません。

詳しくは「成果への分岐点」を参照)

 

 失点をなくすための取り組みでは、いかにクレームや苦情、不満足評価をなくせるかがポイントになります。そこでポイントとなるのが、すべての顧客が同様に持っている「共通的な事前期待」にきっちり応えることです。顧客にしてみれば、共通的な事前期待に応えられることは「当たり前」であることが多いため、これにちゃんと応えられなければ満足度が下がり、クレームや苦情にもなります。よって、失点をなくすためには、共通的な事前期待にきっちり応えられるように、一律なサービスを磨く必要があります。この場合、サービス提供者のアクションのバラツキは「悪いもの」となります。つまり、失点をなくす目的でサービスの均一化に取り組むのであれば、「バラツキは無くした方が良い」といえます。

 

 そこで、マニュアルやチェックリストを活用して、組織的に抜けやムラをなくす取り組みがよく行われています。また、減点式のサービス品質チェックや失敗事例の共有、バラツキをなくすための教育指導や管理徹底など、「失点撲滅型マネジメント」に力点が置かれることになります。

 

 ただし、サービス競争が過熱している今の時代、「失点をしない」だけで顧客から選ばれ続けることはできなくなりました。また、これまで失点をなくすための取り組みを十分に進められてきている企業も多くあります。そこで、これからより重要になるのが、「得点を増やす」ための取り組みです。

得点を増やすためのバラツキ

 

 得点を増やすための取り組みでは、顧客満足評価や、リピートや推奨の意向を高めるような取り組みが主になります。ここでは、顧客ごとに異なる個別的な事前期待や、状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待に柔軟に応えることが有効です。これら顧客ごとに異なるような事前期待には、一律サービスをいくら磨き上げても対応しきれません。つまり、顧客の事前期待に合わせて、個別サービスを磨く必要があるのです。この場合、サービス提供者のアクションのバラツキは、顧客の事前期待の違いに対応したものであれば、むしろ価値あるバラツキといえます。

 

 しかし「サービスのバラツキは無くすべき」という価値観では、こういった価値あるバラツキまで削り落としてしまうことが多々あります。あるいは、失点撲滅型マネジメントを重視するあまり、顧客ごとに異なる期待に応えようとする努力を「余計なこと」のように扱ってしまい、現場がサービスマインドを発揮する気を失わせてしまっていることもあります。いつの間にか、顧客の期待に応えることよりも、上司に叱られないように、決められたことをキッチリこなすことばかり重視する組織になってしまっていることすらあるのです。

 

 得点を増やすための取り組みがうまく機能している企業では、顧客ごとの期待に対応した価値あるバラツキを評価することに重きを置いています。得点型のサービス品質評価や成功事例の共有が積極的に行われ、サービスの社内表彰制度も充実しています。また、顧客ごとの期待を捉えて柔軟に対応するための人材育成や権限移譲も行われています。このように、「得点型のサービスマネジメント」を重視することで、現場も存分にサービスマインドと実力を発揮でき、成果を生んでいるのです。

 

 また、このような顧客の期待に合わせた柔軟な対応の知恵や工夫は、個人の経験知として蓄積されているものの、まだまだ組織的に活用できていないことが多いものです。これはまさに宝の持ち腐れです。そこで、当連載で紹介してきたように得点型サービスモデルとしてサービスを組み直すことで、個人の経験知を組織の力に変えることが可能になるのです。

 

 このように、得点を増やす目的の取り組みであれば、顧客の事前期待に合わせた対応の違いは「良いバラツキ」であると言えます。この「良いバラツキ」に着目して、それを個人芸ではなく、組織的に実践できるようにモデル化することができると、より多くの顧客から、より高い評価を頂けるサービスにステージアップできるのではと思います。

 

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