SERVICE SCIENTIST’S JOURNAL
CX
カスタマー
エクスペリエンス
サービスの定義を組織で共通認識しなければ、議論や活動は噛み合わない
本連載ではこれまでに、目に見えない「CS(顧客満足)」や「お客様の事前期待」を、サービスサイエンスの視点で少しロジカルに捉えることで、その本質や勘所を見出してきました。そこで今回は少し視点を変えて、より実践的に「リピートオーダーをいただくこと」「ロイヤルカスタマーをつくること」について触れてみたいと思います。これは顧客満足向上の重要な目的のひとつだと思います。しかし実は、CS向上の取り組みがリピートやロイヤルカスタマーの増加に繋がらなくて悩んでいる企業が非常に多いのが実態です。そこで今回は、顧客満足とリピートオーダー獲得の関係性をサービスサイエンスの視点で明確にしてみたいと思います。
リピートとCSの相関グラフが盲点を明らかにする
早速ですが、下図をご覧ください。これが、顧客満足度とリピートオーダーの可能性について、相関関係を調査した結果です。
ここから以下のことが分かります。
・顧客満足度が「不満」から「やや不満」、「普通」、「やや満足」と高まっても、リピートオーダーの可能性はほとんど高まらない。
・「やや満足」と答えたお客様の、実に95%以上がリピートしない可能性があると回答している。
・「大満足」になって初めて、リピートオーダーの可能性が急激に高まる。
・「顧客満足度が高まるにつれて、リピートオーダーの可能性が比例的に高まる」という考え方は間違っていた。
このシンプルな相関グラフから、実に重要な気付きが得られます。それは、「リピートオーダーを得るためには、大満足あるのみ」ということです。つまり、リピートオーダーを増やすための顧客満足向上の取り組みであるならば、「そこそこの満足を目指してはダメ」「大満足以外は価値がない」ということを肝に銘じる必要があるのです。すると、これまでの顧客満足向上の取り組みを大きく変えなければならない点が見えてきます。
「顧客満足度」は平均値で議論しても意味がない
最近ではCS調査に熱心に取り組んでいる企業が増えているのですが、そこでは例えば、このような議論がされています。5段階評価(1点:不満~5点:大満足)で顧客満足度を調査した結果を見て、「昨年の我が社の顧客満足度は平均値が3.2点でした。なので今年は3.7点を目標にします。さて、顧客満足度の平均値が、目標の3.7点を達成するためにはどうしたら良いだろうか」と。
実はこのように平均値でいくら議論しても、成果には繋がらないのです。なぜなら、リピートオーダーをいただくためには、大満足(5点)あるのみだからです。顧客満足度の平均値が3.2点から3.7点に上がっても、リピートオーダーを頂ける可能性はほとんど高まらないのです。
では、どうするべきか?
それは、やや満足(4点)と答えたお客様を特定して、そのお客様に大満足(5点)になっていただくためには何をすべきかにフォーカスして議論することです。そうすることで、平均値を見ながら議論するよりも、はるかに効果的で具体的な取り組みができるのです。
しかし、いざ議論してみると、極めて重要な情報がないことに気付きます。それは、「やや満足(4点)と答えたお客様は誰か?」という情報です。しかもここでは、ただ単にお客様の名前やプロフィールが分かっても意味がないのです。
もしかして、顧客情報も平均してしまっている?
お客様は実に様々。しかし顧客満足度調査では、お客様を「顧客」ということばで十把一絡げにして分析してしまってはいないでしょうか。本当にそれで良いのでしょうか?
・初めての利用で不安を感じているお客様と、何度もリピートしていてサービスに慣れているお客様。
・急いでいて迅速に対応してほしいお客様と、時間に余裕があるのでじっくり相談したいお客様。
・できるだけ安価がいいお客様と、納得できれば高価でもいいお客様。
少し考えただけでも様々なお客様がいます。このお客様全てを「顧客」の一言でまとめて分析してしまうと、価値ある情報が埋もれてしまうのです。それは、「やや満足(4点)と答えたお客様」が、どんな事前期待を持ったお客様なのかという情報です。お客様の満たされていない事前期待が掴めれば、明日から何に努力するべきなのかは明快です。この観点から、お客様を十把一絡げにしたり、自社の代表的なお客様像で議論や分析をするのはあまり得策とは言えないことをご理解いただけたと思います。また、お客様に関する情報として、名前やプロフィールだけでなく、事前期待に関する情報を掴む工夫が必要なことも見えてきました。
(事前期待とは何かについて詳しく知りたい方は、本連載「CS向上を科学する」の第2~3回「事前期待を科学する」をご参照ください。)
このように、顧客満足度調査は、結果やお客様を平均化してしまうところに盲点が生まれることが分かりました。やはり顧客満足の本質は「お客様の事前期待」にあります。お客様の事前期待を掴み、それに応えるにはどうしたら良いのか。その努力のポイントを明確にできるような顧客満足調査を進めることが重要なのです。