SERVICE SCIENTIST’S JOURNAL
ESが先
CSはあと
問題
Q.ESが高くないとCSを向上できないという考え方で、従業員の処遇を改善してはいるが、これがCS向上につながる実感がない。本当にESが先、CSが後という考え方で良いのでしょうか。
ESが向上したら本当にCSは高まるのか
CSを高めたかったら、ESを先に高めないといけない。このような考え方を重視している企業も多いことでしょう。ESが先、CSが後。これは特に欧米を中心に浸透している考え方だと言われています。従業員が会社から大切にされていると実感できなければ、お客様を大切にすることはできないというものです。このことについてもう少し解像度を上げて考えてみましょう。
ESが高い従業員は、本当にCSを高める努力を重視してくれるのか。必ずしもそうとは限らないのではないかと思われた方が多いのではないでしょうか。ES向上の施策と言えば、給料アップや福利厚生の充実と言うような条件面の改善であったり、長時間労働の解消などの職場環境の改善、1on1やサンクスカードのように人間関係を改善するものなど様々です。
例えば、業務が多忙で従業員が疲れ切っているので、業務を効率化して定時に帰れるような環境を整備する。業務時間が長くて疲れ切っていた従業員や、定時に帰って家族や仲間との時間、趣味の時間を大切にしたいと思っていた従業員は、これによってESが大きく向上することでしょう。ではこれで、忙しさが解消されて工数に余裕ができたわけだが、その余力をもってCS向上に熱心に取り組んでくれるだろうか。「それは人によりますね」というのが実情ではなかろうか。
ESがCSに繋がるかは事前期待による
「人による」これがまさに「事前期待による」ということでしょう。誰の事前期待かと言うと、“従業員”の仕事に対する事前期待です。先程の例で言えば、忙しさが解消されて、ESが向上した結果、CS向上に熱心に取り組んでくれる従業員はどのような事前期待を持っているのでしょうか。「指示された仕事をさっさと終わらせて、早く帰って趣味を楽しみたい」という事前期待の従業員よりは、「自分の仕事を通して誰かの役に立ちたい」とか「顧客に喜んでもらったり、顧客の助けになることを優先して取り組みたい」という事前期待で仕事をしている従業員の方が、CS向上に熱心に取り組んでくれそうです。つまり、CS向上に対する事前期待を持っている従業員こそが、ESが高まることでCSを高めるアクションに結びつきやすいといえる。
では、CSの高い仕事をしたいという事前期待を従業員に持ってもらうためには、どうしたら良いのでしょう。理念の共有やCSマインドの教育も大切でしょうが、最も効果的かつ重要なのは、自分の仕事を通して顧客に喜んでもらえたという成功体験ではないでしょうか。ある外食チェーンではCSマインドを醸成するために、入社したての従業員は必ずお見送り業務を担当させるようにしているそうです。食事を済ませて会計を終えた顧客が、お店の扉を出ていく際に「ありがとう」とか「おいしかったよ」「また来るね」と嬉しい言葉をかけてくれる可能性が高いから。顧客接点での成功体験ほど、従業員のモチベーションに結びつくものはありません。こういった経験を通して、顧客に喜んでもらえるような仕事がしたいと言う事前期待が醸成されていくのです。
従業員の事前期待をモデル化する
ここで何が言いたいかと言うと、CS向上のためにESを先に高めなければいけない「ESが先CSが後」という考え方に、従業員の事前期待をクロスして考えてみると、むしろ、「CSが先ESが後」なのではと思えてきます。しかし文字にして書いてみると、なんともとげとげしく感じますね。「従業員を犠牲にしてでも、顧客に尽くせ」と言っていると誤解されてしまいそうです。ESが先か、CSが先か。これに答えを出すことが目的ではありません。従業員が前向きにCS向上に取り組み、事業をさらに成長させるためには、どうしたら良いのかを見出したいのです。
そこで、私が普段支援している企業では、「どちらが先か」ではなく、「ESとCSを同時に高める」を心がけている。具体的に言うと、顧客接点での成功体験(つまりはCS)が向上したと言う経験を通して、従業員のモチベーション(つまりはES)が高まり、さらなるCS向上へのアクションに結びつくようにすることが、経営やマネジメントの役割であるということです。従業員の事前期待をモデル化し、CS向上がES向上に結び付くようなマネジメントをする。従業員の仕事に対する事前期待がCSに向かうような育成や評価制度の工夫をする。従業員側の事前期待にも目を向けることで、CS&ESサイクルを組織的に回せるようになるはずです。