SERVICE SCIENTIST’S JOURNAL
進化と退化
の
スパイラル
サービス事業はどのようにして進化や退化の道を進むのか、そのシナリオの全体像を捉えることで、力強く成長し続けるサービス経営を実現したいものです
いざ、サービスやCSの向上に取り組むと、誰も反対はしないけれど、誰も本気でもない。サービス向上やCS向上と聞いた途端に白けてしまう企業も少なくありません。サービスやCSの向上は、建前としては賛成だが、実は取り組みの意義が見出せないというのが本音なのです。人手不足の中で忙しさと戦っているサービスの現場やマネジメントにしてみれば、意義が見出せない取り組みに本気になれと言われても無理があります。このように、「建前の壁」を乗り越えなければ、取り組みを進めることができないことがよくあります。取り組みの主要メンバーが抱いている活動の意義や危機感を見える形にすることで、本気になってくれる仲間や応援者を増やしていく必要があるのです。
サービス向上を事業成長に繋げる正のスパイラル
サービス向上やCS向上に取り組む意義は何でしょうか。誰でもぼんやりはイメージできますが、これまで明確に描いたことがなかったのであれば、自社の誰が見ても価値を感じる取り組み意義を見える形にすることが有効です。例えばサービス向上が事業成長に繋がるシナリオは次のようになります。
まずは「顧客の事前期待の的」に合わせてサービスを向上させるところからスタートします。そうすることで「顧客の事前期待に応えられる場面が増える」と、顧客からの理解や協力を得ながらサービスを提供できるようになり、顧客に喜ばれていることを実感できるようにもなります。すると、サービススタッフが「実力を発揮でき、やりがい」が増します。そして「サービスの品質と生産性が向上する」。その結果として、「大満足」のお客様が増えます。更には、お客様ロイヤリティが醸成され、リピートや紹介が増えて、盤石な顧客基盤が構築されることで収益が安定的に向上します。すると、余力ができるので、更なるサービス向上に向けて必要な投資ができるようになります。
このサービス向上を事業成長に繋げる正のスパイラルが回り続けることで、お客様に喜んでいただくことと、サービスの現場がやりがいを感じることが、事業の成長力に変わっていくのです。これを、自社のサービス事業に当てはめて、より具体的に描き直すことで、取り組みの意義や方向性が明確になると思います。この正のスパイラルは、イメージ通りという方も多いのではと思います。
サービス向上に取り組めない負のスパイラル
「負のスパイラル」についても見てみましょう。サービス向上やCS向上に取り組まないというのは現実的ではありませんので、ここでは、取り組んではいるけれど、「事前期待」に合わせたサービス向上ができないことで「大満足のお客様が増えない」という状況を捉えています。
「顧客の事前期待」に合わせたサービス向上ができないことで、「事前期待に応えられない場面」が増えます。顧客からは急ぎの変更要求や不満の声があがり、その対応で現場が疲弊してやりがいが見出せなくなってきます。当然ながら余裕がなくなるので、忙しさに負けてサービスの品質や生産性が高められなくなります。結果として、「やや満足」の評価までは頂けるものの、「大満足」のお客様はなかなか増えません。すると、顧客ロイヤルティが高まらないので、サービスでの競争優位性が高まらず、徐々に顧客が他社に奪われてしまいます。顧客が減ると収益が悪化し、余力がなくなって必要な投資ができなくなります。サービス向上にコストも時間も人も割けなくなり、更にサービスの評価が低下して、事業としてじり貧な状況に追いやられてしまいます。
少しオーバーに描かれているように感じるかもしれませんが、サービス改革に取り組む企業では実際に負のスパイラルに陥りつつある危機感を持っていることがよくあります。実際に現状を調査してみると、「やや満足」の顧客がリピートや紹介をしてくれる可能性は極めて低い結果になることが少なくありません。サービスやCSの向上にただ単に取り組むのではなく、「大満足」のお客様を増やすための取り組みを組み立てて実践しなければ、サービス事業の成長をドライブできないことは、一目瞭然です。
また、別の観点でこのスパイラルを描いてみると、サービスの現場が「実力を発揮してやりがいを感じられる」ことで、そのスタッフを見て優秀な人材が集まってきてくれそうです。逆に、「疲弊してやりがいを感じられない」スタッフを見て、優秀な人材が集まってきてくれるとは思えません。サービス事業の人手不足が問題視される現状においてサービス向上に効果的に取り組むことは、事業成長を推進する人材の採用や育成にも貢献できることが分かります。
このように、サービス向上の事業成長スパイラルを明確にすることで、活動の主要メンバーの熱い思いを周囲に伝搬させるきっかけにして頂ければと思います。