top of page

SERVICE  SCIENTIST’S  JOURNAL  

苦戦する製造業のサービス化.png

苦戦する

​製造業の

サービス化

「​製造業のサービス化」をテーマに掲げて久しいですが、なかなかうまく推進できずに苦戦している企業が多いようです。製造業がサービス化するために乗り越えなければならない課題とは一体なんなのでしょうか

 サービスの価値を高めて競争優位を築くことは、もはやサービス業だけの課題ではありません。一次産業では、サービスに乗り出すことで収益を改善していくといった具合に、六次産業化に乗り出す取り組みが盛んになっています。また、製造業においても、「製造業のサービス化」を経営課題に掲げて改革を進める企業が増えています。

 

 以前は、製品の品ぞろえや新しい機能、メニュー開発で差別化をしていこうという企業が多くありました。しかし最近では、機能やメニューではなかなか差をつけられなくなり、あっという間に価格競争に追いやられてしまうのが実情です。そこで、サービスの価値を高めることで、他社に圧倒的な差をつけて、お客様に選ばれ続ける事業に成長していこうというのです。

 

 しかしいざ取り組もうとしてみると、何から手を付けたら良いか分からなかったり、取り組んではいるものの成果が得られなかったりと、苦戦している企業が多いものです。「製造業のサービス化」においては、根深い問題が背景にあることも多々あります。そこで今回は、製造業のサービス化はなぜ苦戦するのかを考えることで、製造業だけでなく様々な業界でサービス改革を進める上でのヒントを見つけてみたいと思います。

 

製造業が「これからはサービスも頑張ろう」ということではない

 

 製造業のサービス化に苦戦している企業の多くが、「これまではモノづくりに力を入れてきたから、これからはサービスももっと頑張っていこう」という意識で取り組んでいます。もちろんこの考え方が間違っているというわけではありませんが、この言葉の背景にある「サービス」の捉え方を見直す余地はあるかもしれません。製造業においてサービスは、製品を販売した者としての「義務」や、製品を購入するとついてくる「おまけ」という意識が根強く存在していることが多々あります。実はこれはサービス業でも同様で、「サービスにしておきますね」というように、サービスは「無料」や「おまけ」という意味で使われていることがまだまだ多いものです。

 

 これは、社内の花形意識にも繋がります。製造業でよく聞くのは、開発部門の地位が高く、サービス部門は地位が低いという問題です。サービス部門が顧客接点で掴んだ価値ある情報を開発部門に共有しても、あまり活かされないままに開発が進められてしまう、という話はよくあるのではと思います。これは、私自身が製造業で開発業務を担当していた時の反省でもあります。

 

 「製造業のサービス化」を経営課題として取り組んでいるにもかかわらず、このような意識では、サービスの価値を高めることはできません。「製造業だけど、これからはサービスも頑張ろう」という意識ではなく、「我々は、モノが作れるサービス業なんだ」という視点で、製造業のサービス化を捉え直してみると、できることはまだまだあるのではないでしょうか。サービス業が、サービスで価値を発揮するためにモノが作れるというのは、圧倒的な強みになります。

サービスをどう捉えるかが、サービス改革への本気度にも繋がる

サービス改革に本気になるだけでうまく行くとは限りません。製造業のサービス化を進める上での「サービスの作り方」に着目することで、いくつかの課題を明らかにしてみたいと思います。

 

 製造業に限らず、サービスの競争力を高めようという取り組みの多くが、「いいサービスであれば喜ばれるはず」という思いで勝手に作ったサービスを、一方的にお客様に押し付けてしまっています。サービスはお客様と一緒につくるものだという大切な特徴があります。いくらこちらが良かれと思って提供したことであっても、お客様の事前期待に合っていなければ「サービス」とはいえません。それはもはや、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と呼ばれてしまいます。サービスを開発したり、提供しようと思ったら、お客様の事前期待を捉えなければ、サービスを提供することすらできないのです。製造業のサービス化を通して、具体的にどんな事前期待に応えようとしているのでしょうか?闇雲に取り組むのではなく、事業の成長や競争優位性の確立も見据えて、事前期待の的を見定めておきたいところです。そして、お客様不在の取り組みになってしまっていないか、是非見つめ直したいものです。

 

 続いて、サービスの組み立てについて振り返ってみたいと思います。製品の設計は、時間もお金も人も割いて命がけで取り組んでいることと思います。一方でサービスの設計はどうでしょう?会社の組織図を見ても、「サービス設計部」という部署すらないことがほとんどです。サービスの設計といっても、失点しないための必要最低限の業務標準が定められているだけということも少なくありません。失点しないことも大切ですが、サービスで事業成長をドライブするためには、得点型のサービスに組み立て直すことが有効です。更には、製造業においては、社内での顧客接点やサービス部門の立ち位置が低いことがあります。その原因は、周囲からの過小評価もあれば、自分たち自身で勝手に枠を決めてしまっていることもありますが、いずれにしても、サービスで価値を発揮するためには、部門の壁を越えた連携が必要な場面があります。そこで、サービス部門だけに閉じたサービス設計ではなく、顧客の事前期待に応えるために、部門を壁を越えたサービスを設計することが重要です。

 

 サービスの人材育成にも課題がありそうです。サービスはお客様と一緒に作るものだととらえると、顧客接点にいるサービススタッフの育成は、サービスの要だといえます。その肝心な人材の育成の実態は、OJT(On the Job Training)を都合よく解釈して「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」と、現場任せな人材育成しかできていないことが少なくありません。もちろん経験を積むことは大切ですが、個人の経験や気付きに頼った人材育成では、組織的にサービスの価値を高めることはできません。組み立てたサービスを実現するためのサービス人材の育成にもテコ入れが必要となりそうです。

 

 更には、サービスのマネジメントの仕方も、ひと工夫したいものです。それは「失点撲滅型マネジメント」からの脱却です。サービスの組み立てを得点型に切り替えたところで、サービスのマネジメントや評価の観点が「失点撲滅型」では、現場の行動が伴いません。顧客ごとの期待に応えていくことよりも、社内や上司に叱られないために余計なことをしないことを選択するようになってしまいます。是非、得点を積極的に評価する視点でサービスをマネジメントすることで、「製造業のサービス化」を現場とマネジメントが一体となって推進したいものです。

 

SERVICE  SCIENTIST’S  JOURNAL 

 

bottom of page