top of page

SERVICE  SCIENTIST’S  JOURNAL  

ESが先、CSはあと問題.png

ESが先

CSはあと

​問題

Q.ESが高くないとCSを向上できないという考え方で、従業員の処遇を改善してはいるが、これがCS向上につながる実感がない。本当にESが先、CSが後という考え方で良いのでしょうか。

 ES(従業員満足)やエンゲージメント、インナーブランディングというテーマと連動してサービス改革を進めることが近年増えてきました。「ESとCSはどちらが先ですか。」とよく聞かれます。海外ではサービスは辛い仕事だと捉える意識があり、従業員満足が高くなければ顧客を大切にできないと言われています。つまり、「ESが先、CSが後」という考え方です。もちろん一理あります。しかし、私はサービス改革を進める中で、必ずしもそうではないと感じます。

 

ESとCSを別物扱いしない

 

 実は、日本サービス大賞を受賞した住宅会社フォレストコーポレーションや新幹線の清掃会社TESSEIなどいくつもの事例から、日本の優れたサービス経営においては「CSとESは同時に高める」ことができると分かります。受賞企業の経営者の中には、一瞬でもどちらが先かと問われたら「CSが先」と断言される方も。CSとESを同時に高められるようにするのが、経営やマネジメントの仕事であり、サービス経営のしくみの役割のひとつだといえます。

CSとESを橋渡しするフォレストコーポレーションの事例

 先日、生産性本部が主催するシンポジウムで、サービス経営改革について講演の機会をいただきました。そこで、株式会社フォレストコーポレーション(第1回日本サービス大賞の地方創生大臣賞を受賞)の小澤社長が、サービス改革の成功事例講演としてご一緒くださいました。

 フォレストコーポレーションは長野県の住宅会社で、「せっかく一生に一回の家をつくるなら、家族で山に入って自分の家に使う木を一本選んで伐るところから参加しましょう」と、お客さま参加型の家づくりサービスを提供しています。木を伐ることで家づくりが家族の大切な物語に変わっていく“家づくりは家族づくり”をコンセプトに、顧客と感動の家づくりを共創しています。大手ハウスメーカーと真っ向勝負をして勝ち抜いており、事業は8年で3倍に。また、従業員の働きがいランキングにもランクインしている素晴らしい会社です。

 会場からは、「従業員のやる気を引き出すにはどうしたら良いか」との質問が相次ぎました。「同期に負けたくない「出世したい」「お金持ちになりたい」というような競争意識や自己実現欲求では、最近は動機づけできない従業員が多く、どうしたらモチベーションを高められるのかと悩んでいる方もいらっしゃいました。

 そこで私なりに、フォレストコーポレーションのサービスのしくみをひも解いてコメントさせていただきました。

 

 

2つのサイクルでCSとESを橋渡し

 

 1つ目のポイントは、家づくりプロセスの組み立てにあります。たとえば、山に入って自分の家に使う木を選んで伐る「選木ツアー」。家を建てるエンドユーザーが、林業従事者である山守(やまもり)が管理する山に入って木を選んで伐ります。たった1本の木を伐っただけで涙する顧客や、「山守さんってカッコいい!」と喜んでくれる子供たちと直接触れ合うことで、山守さん自身、林業の仕事への誇りと自信が高まります。

 

 家をつくり始める「着工式」には、関わる従業員や職人が全員そろって意気込みを語ります。そして顧客と一緒に家づくりを進め、完成した際の「引き渡し式」。感動で涙する顧客の姿を目の当たりにして、思わず目頭が熱くなる従業員や職人も多いそうです。このように、顧客接点での成功体験を仕事の「やりがい」や「存在意義」に結びつけるサイクルが回っているのです。

 

 2つ目は、事業マネジメントのしくみにあります。3ヶ月毎のサイクルで推進される目標制度。最初に目標設定し、2ヶ月目はチャレンジ状況について経営と中間面談、3ヶ月目の終わりに成果発表をします。このしくみをチームごとに小まめに繰り返しています。これにより、皆で協力し合って目標達成するという仕事の成功体験を、自分たちが事業を作っているんだという「自覚」と「自信」に結びつけるサイクルが回ります。

 

 この2つのサイクルが相まって、フォレストコーポレーションには、「顧客との共創」や「変化へのチャレンジ」に前向きでイキイキとした顔色の従業員が多いのです。さて、このフォレストコーポレーションの事例から「CSとESの橋渡しの仕方」が見えてきました。次回、さらに具体的な方法を整理したいと思います。

スキを磨くサービスプロセスを設計する

 サービスプロセス設計の中にESポイントを組み込みます。現場の知恵や工夫を組織の力に変えるサービスプロセスのモデル化。そのカギは、プロセスごとに「事前期待」を定義して、サービスの価値やCSを高める努力ポイントを明確にすること。加えて、「勝負プロセス」を明示することで、CSを事業成長に強力に結びつけること。そう解説してきました。

詳しくは「サービスプロセスのモデル化」を参照

 ここにESポイントを組み込みます。「自分のスキルを活かした仕事が顧客の役に立ったんだ」と、仕事のやりがいや意義を実感するポイントをサービスプロセス設計の中に組み込むのです。

 

 たとえば、フォレストコーポレーションの「選木ツアー」「着工式と引き渡し式」が該当します。ある外食店では、新人には必ず会計後のお見送りのポジションを与えると言います。帰り際に顧客から「ありがとう」「おいしかったよ」「また来るね」と言ってもらう経験を積むことで、この仕事を好きになってもらうことから始めるのだと。

 

 このように、仕事の中に「好き」を作るサービスプロセスを設計して運用することで、CSが高まるほどにこの仕事や会社が好きだという従業員が増え、さらにCSを高めるアクションへと繋がります。これを、「スキを磨くサービスプロセス設計」と呼んでいます。

スキを磨くマネジメントのしくみ

 

 2つ目は、「皆でやってみる」を後押しする事業マネジメントのしくみです。

 

 「論より証拠」の言葉の通り、いくらキレイなサービスモデルを設計しても、実行しなければ意味がありません。サービスはお客様と一緒につくるものです。やってみなければ分からないコト、見えない風景、得られない感覚がたくさんあります。やってみて得た経験知や実感にこそ、宝の山なのです。著書「日本の優れたサービス」の帯にメッセージをくださった一橋大学の野中郁次郎先生の言葉をお借すると、これを「知的体育会系」と言うそうです。

 

 自分たちで決めて、「やってみる」を踏み出せる会社と、その手前でアレコレ理由を付けて現場が諦めてしまう会社、マネジメントが現場を諦めさせてしまう会社とでは、変化や成長の速度に大きな差が付きます。それだけでなく、「やってみる」現場は、イキイキしていることが多いものです。まさにフォレストコーポレーションはそういう会社です。誤解してはいけないのは、イキイキしているから「やってみる」ができるのではありません。「やってみる」からイキイキしているのです。

 

 これを後押しするしくみが、フォレストコーポレーションの事例でいえば3ヶ月毎の目標制度です。

 

 1ヶ月目。自分たちで目標を決めて、やってみる。

 2ヶ月目。上手くいかなくて、皆で一緒に悩む。経営マネジメントも一緒に考える。

やり方を変えてやってみる。すこしずつうまくいく。

 3ヶ月目。皆で達成成果を確認し合う。皆で喜びや悔しさを共有する。

そして次なるチャレンジへ。。。

 

 事業マネジメントのしくみとして、皆で決めてやってみることを後押しできれば、チームで仕事をしている実感や、自分たちが事業を作っている自覚と自信を高められます。「スキを磨く事業マネジメントのしくみ」として運用するのです。

 

 

 「スキルを磨く」は、どの会社も熱心に取り組んできました。これから重要なのは「スキを磨く」を掛け合わせることです。磨いたスキルを活かして顧客に貢献し、事業成長に貢献している実感が、この仕事、この事業が好きだという思いを高めてくれます。仕事でスキを磨くサービス設計とマネジメントのしくみの運用でCSとESを橋渡しして、魅力的なサービス事業へステージアップしましょう。

 

SERVICE  SCIENTIST’S  JOURNAL 

 

bottom of page